STAND UP

ざわめく声が何千何万と重なり轟く。
その音の波に感覚が支配されている。

俺は目を閉じていた。

自分の立っている場所を想像する。

それは荒野かも知れないし
草原かも知れなかった。

あるいはアスファルトの上かも知れないし
柔らかい土の上かも知れなかった。


風が頬にあたる。

きっと冷たいはずだろう。
けれど今は温度を感じない。

俯いたまま目を開くと鮮やかな芝生。

抜けるような青空にはあえて目をやらず
俺はまっすぐに正面を見た。

吹きすさぶ風も
自分が立っているということさえもなんだか遠くて
大舞台になればなるほど強くなる
言いようの無い浮遊感が
俺はたまらなく好きだった。


敵を見据える。
やはり来たか。
その顔ぶれに心臓が鳴る。

去年はダークホースだった。
今年は新たな強豪となった。

彼らチャレンジャーであり
リベンジャーでもある。

追う側と追われる側。

勢いがあるのは確実に前者だと人は言うだろう。

敵の眼は、熱かった。


だけどね、俺は口角をあげた。

もうすぐ開示の合図が鳴る。

これは戦いだ。
しかしそれ以前に、勝負なのだ。

負けられないのなら、負けなければいい。

負けないためには、勝てばいい。

王者の名は伊達じゃないってこと。

身を以て教えてやろう。


ゴールを睨むと、キーパーと眼があった。

確固たる自信をたたえた目。
だけど俺も負ける気はしない。

きっと割れる。
絶対にこじ開けてみせる。
あいつの目の前でガッツポーズをしてやる。
できないはずがない。

五年間も
最高と謳われる選手を練習相手にしてきたんだから。


合図の瞬間

俺の感覚は全てに澄む。







俺の体は動き出す

高校サッカーシーズンにかいたもの
王者の特有の過酷さの中でもサッカーを楽しめそうな藤代が好き