乳白色の午後
俺の休日と、空がこんな風に気持よく晴れる日とが重なるのは久しぶりじゃないだろうか。
広場の石畳の一枚一枚の角が白く反射するような、眩しいくらいに光の多い午後だ。
ちかちかする目元をさすってみても、何のごまかしにもならなかった。
目を伏せても赤色が揺れている。目蓋の毛細血管が透けているのだ。この国の溢れんばかりの陽気に、少しうんざりした気持ちだ。
今日は新しい服を買いに行く予定だった。
それと新しいカーテンの下見。
今のじゃ色が暗すぎて気が滅入るから、今度こっそり換えてやろうと思っている。
どうしてカーテンを換えるのにこそこそしなきゃなんないのかというと、それは換えるのが俺の部屋のカーテンじゃないから。
なんだかんだであいつも随分丸くなったし、引き千切るような真似はしまいと思ってのことだ。
久しぶりに丸々一日がぽっかり休暇だったので、それなりに計画を立てて楽しみにしていた。
あの親父の店に顔を出してやるか、だとか。
ちょっと遠出をしてあそこのヴィーノを買おうか、だとか。
しかし俺の計画は、朝からもうすでに狂ってしまい、そのまま狂いっぱなしでいる。
予定はまだ何一つ実行されちゃない。
出かけてからそろそろ4時間経つというのにだ。
今日したことといえば、まず手芸屋に行って(そこで小さなテディ・ベアを強請られ)、
次に可愛らしい雑貨屋に入り(ここではそれぞれにクラウンとティアラの描かれたおそろいのマグカップを買ってやり)、
手ごろな値段のアクセサリー屋に寄り(おもちゃみたいな青いピアスを気に入ったようなので包ませた)、
今は小綺麗なバールのテラス席で俺を連れまわした少女と向かい合っている。
文字にするとなんとも薄ら寒い状況だ。自分に似つかわしくないもののオンパレードだ。
「ねぇ、スクアーロ」
呼びかけられて顔を向けると、少女は口の端にココアパウダーを付けたまんま不満げに眉を寄せていた。
「ニコニコしろとは言わないけどさ、その機嫌悪そうな顔はやめてくれない?」
まったく、見た目だけは可愛らしく育ったもんだ。
少女の真ん前には平たくて四角い白い皿。
その上にはサイコロ状に切り分けた一口サイズのティラミスが山なりに積み上げられている。横にはラムレーズンのジェラート、
勿論皿のふちにチョコレートソースでレースの縁取りを思わせるデコレートも忘れちゃならない。
「こんな昼間に屋根が無ぇとこで顔しかめるなって方が無茶だぞぉ。こっちはお前と違ってメラニン少ねぇんだ」
「ぐちゃぐちゃ言わない。ボスほど大変じゃない癖に」
「そうだけどよぉ」
あいつは昼間に外を歩くことなんかほとんどねぇよと言おうとしたが、それは俺も同じだということに気づいてやめた。
今日がイレギュラーなだけだ。
周りから俺達二人は一体どんな風に見えているんだろうか。
血が繋がっている風には見えないだろう。俺の髪と目はアッシュだが、こいつの目は蒼色で髪も青に近い黒なのだ。
恋人にしては歳が離れている、というかこんな少女に手を出しちゃ不味いだろいくらなんでも。
こいつが実際にどのくらいの年数の記憶を宿しているのかは定かじゃないんだが、しかし、なんなら親子に見えたって不思議じゃないくらいの年齢差なのだ。
あくまで見た目には。もしかして本当に親子に見えているかもしんねぇな、おい。
母親のほうが黒髪だったりすれば或いは、俺にこんな感じの娘がいてもおかしくは無いかもしれない。
黒髪の、たとえば・・・・・・いやいやいや、何考えてんだ俺は。
両方男だっつーの。そもそも大抵は俺が女役だ。
となると孕むのは自分のほうじゃねぇか。なんつー悪夢だ。太陽に中てられてちょっとおかしくなってるらしい。
一瞬頭に浮かんだ映像が、ちょっと幸せそうに見えただなんて。
俺はカップを手に取り、なんとも言えない気持ちで溜め息ごとカフェオレを飲み干した。
まぁ、まさか俺達が二人とも暗殺者だなんて、誰も思いやしないだろうが。
なんだかんだでマーモンに甘いスクアーロ