優しい

このアホはとにっかく物覚えが悪い。
いっぺんに二つ以上の言いつけは覚えられないわ、待ち合わせの時間もすぐに忘れるわ。
ネクタイや靴紐が結べないのは不器用な所為もあるが、結び方が覚えられないというのが最大の要因だろう。
ちょうちょ結びのやり方さえ知らないし、覚えられないのだ、この阿呆は。

けれど、どうしてだか、セックスの手管に関してはやたら飲み込みが良い。
フェラとかもそう。
最初の方はひっどいもんで、力の加減もよくわかってないし、すぐ咽るし、緩急の付け方もおかしいし、 上り詰めて来たなって時に拍子抜けさせられたり、逆にいきなり強すぎる刺激がきたりで、 やっぱこんなチンピラ仕込もうとする方がおかしいんだなこりゃって。
けど下手だからもうやらないとか、そういう選択肢が無いのが、俺の一番クレイジーなところだ。
そうこうしてるうちに俺を悦ばせる手管だけがやたら上達していった。

俺の腹の下で湿った音を立てながら、吾代はちらちらと顔色を窺うように俺を見上げる。
そんなすがる様な目つきとかって、やっぱたまんない。
こんな狭い世界しか見えてないし見させてもらえてないガキに漬け込んで、 何やってんだよ俺。とか、思わなくも無い。 けど、そういう罪悪感が俺に拍車をかけているのも事実。
最低だ。
真昼間の事務所で行為を強要してるこのシチュエーションも、かなり俺好みではある。
職場で仕事中、誰かが今入ってきてもおかしくない状況。
最低っつーか、変態だよこれ。


「・・・なぁ、何考えてんの?」

咥えたままで、粘膜が揺らめく。息がかかる。
俺と目が合うと、吾代はすぐにバツが悪そうに俯いた。
考えてたこと。
それはつまり、このアホの事ってことになるんだろうか。
それとも俺の性癖を顧みてました、とか?
黙っていたら、吾代の表情はどんどん翳ってゆく。

「なんか反応鈍いんですけど。もうオッサンだから?」

軽口にしちゃあ、表情が、なんていうか、不安気に大人の顔色を窺う子供と似ていて。
だから黙ってその次の言葉を待った。
悪い大人だから。

「つーか・・・もう俺とか飽きた?」

ああもう。
こんなガキに漬け込んで、お前なんかの側に居るの俺だけだよって嘯いて、 もう今は押し倒して突っ込む事で頭がいっぱいで、つまり俺はきっとお前の事ばっか考えてるよ。
おっさんがめろめろすぎた・・・