楽しい我が家
双子ってのは、兄弟って言葉じゃ片付かないもんなのかもしれない。
俺にも姉がいる。2コ上。
外で猫被り過ぎだとは思うし、ちょっと俺に対しての態度が酷いんじゃねぇの?と思うこともあるけど、でもまぁ嫌いってほどじゃない。
なんだかんだで俺や家族に気ぃ配ってるし、ちゃんとしてる。
うん、すごくちゃんとしてんだよ、あいつ。そういうところ偉いよなって思う。
クラスの連中なんかに聞くと、姉と弟はあんま仲良くないらしい。
うちだってたまにメールとか電話とかするくらいだって言ったら、「お前それはめちゃめちゃ仲良いよ」と言われた。
同じ家に居るだけでほとんど会話をしないとか、ぎゃあぎゃあ言われるたびにうんざりするとか、あんまり関わらないようにしているとか、みんな散々な言い様だった。
年頃の男子(俺もだけど)特有の照れみたいなもんも手伝ってるんじゃないかとは、ひそかに疑っているが。
言わなかったけれど、同じ家に住んでいたころは二人で買い物や映画に行ったりもしていた。
泣きながら愚痴る姉ちゃんに一晩中付き合ったこともあった。この程度でも「お前シスコンなのな」とか言われかねない。
そんなキャラ付け要らねぇよ。
うちでそんな言われようなのだ。世の兄弟ってのは結構ドライなもんらしい。俺と姉ちゃんだってべったりってわけじゃないが。
そこいくとクラスメイトの双子は、異様だ。雲水とその弟。
弟はあからさまに雲水だけ特別扱いだし、雲水もなんだかんだで弟には甘い。
特に弟の阿含。あいつはブラコンの域すら超えてるんじゃないかと思うときがある。まさに雲水にべったりなのだ。なんていうか、精神面が。
俺に雲水達以外の双子の知り合いは居ないので、すべてを「双子だから」で片付けるわけもいかない。
いくらなんでも世の中の双子がみんな精神的に相手に依存してるなんてことはないだろうし。
ただ、もしも阿含と雲水が双子じゃなくて年齢も遺伝子も違う普通の兄弟として生まれてきたとしたら、
こうはなってなかったんじゃないだろうかって思ったりもする。
ところで、俺はクラスの中じゃ雲水と親しいほうで、一緒に昼飯を食べたりもする。
だから自然と阿含の視界に入るようで、たまに少し睨まれる。
「あいつは目つきが悪いだけだよ」なんて雲水は言うが、お前それは身内の贔屓目だと言ってやりたい。
まぁ言わないけど。薮蛇だから。
特にこれは酷いと思うのが、二人セットのときにばったり出くわしたとき。
立ち止まって話すわけでもない。
ただすれ違いざまに軽く挨拶をするだけ。
それだけで、弟は敵のような目で俺を見るのだ。
しかも、その目にこもっているのは敵意だけじゃない。
その目にはなんだか切実な焦りのようなものが見えて、俺の興味をそそる。
あれは独占欲というよりも、もっと、なんていうか必死な印象だ。
母子家庭の男の子が、母親に近づく男に向けるような・・・ってハマり過ぎるな、それ。
その絵を想像して俺は密かに喉を鳴らして笑った。
向かいに座る雲水が、不思議な顔で俺を見ている。
そう、ちょうど今は昼休みで、弁当を食べ終わった雲水はついさっき振動した携帯電話を片手に持っている。
いや、俺のことはいいから、早く弟くんにメールを返してあげてくれ。とは、薮蛇だからもちろん言わない。