ホワイトルーム:U

「なぁ死ぬの怖い?」
ゆるゆると顔を上げると、弟は表情無く俺を見ていた。
節榑立った指は、ひとまわりもふたまわりも細くなった俺の腕をなぞっている。
「俺が殺してやろうか?」
すんとした、濁りも曇りも翳りも無い眼。
「そしたら怖くないだろ? なぁ、雲水」
生への執着さえ希薄な、まっさらな心の俺の弟。
何よりも愛しい生き物。

ゆっくりと其の眼を覗く。
弟の黒目に自分の笑んだ顔が映った。
嗚呼、其れは恐ろしく穏やかだ。

消えて無くなる事は恐ろしい。
お前を縛りつける事も確かに怖い。
でももっと、怖い事があるんだ。
なによりも、怖い事があるんだ。

「俺は」

嗚呼。
許されなくたっていい。
憎まれたっていい。
弟が苦しむのさえ、"それ"への恐怖に比べれば。
なんて、自分勝手で自己中心的で。
だけど、それでも。
それでも。

「俺は、お前が死ぬのが一番怖いよ」




何よりも怖いのは、片割れの消滅。