ディア マイ フレンド

「あーあーあー・・・」
ロボの下敷きになって四苦八苦している俺様の目の前に、憎たらしい顔が姿を現した。 俺様と俺様の自慢のメカをこんな街外れの森まで吹き飛ばした張本人。
赤いスーツに身を包み、黄色い手袋に黄色いブーツに黄色いベルト。 背中には茶色いマント。変なセンス。でもこの格好はもはやこの街では正義の代名詞と言っても過言ではない・・・らしい。
「どうして君はこんなものも持ち上げられない程弱っちい癖にさ、いっつもいっつもいーっつも僕の手を煩わせるのかなぁ」
ニコニコ笑って、それこそ街の奴らに優しくするときと同じ顔をしてるのに、口調は物っ凄くいやみったらしい。 街で俺様と向かい合ってるときとは大違いだ、この二重人格。
自分で殴り飛ばしといて、街外れの森で目を回す俺様の前にのこのこ現れるのも毎度のことだ。 きっと街の奴らが居たら言えないような正義の味方らしからぬことを好きなだけ言うために違いない。 こいつの猫っ被りにはほとほと呆れ返るのだ。
「うるさいうるさぁい! 俺様の目の前に立つんじゃない、どっか行け!」
「帰っていいの? 僕がコレ持ち上げないと、君ずっとこのままなんじゃないのかい?」
黒い・・・にっこりと微笑むこいつの後ろにイカ墨みたいに真っ黒なオーラが見える・・・。
どうして町の奴等はコイツの腹黒さに気付かないのか、俺様はいつも不思議だ。 ずーっとニコニコして、呼ばれたらすぐに駆けつけて、やることといえば人助けばかり、 そんなことしながら文句のひとつも言わないなんて、そんなやつ居るはず無いのだ。 大体、頭の中身が黒い餡子なんだから、腹の中も真っ黒に決まってる。
みんな見た目に騙されてるのだ。肌の色は健康的だし、色素の薄い髪と目は日に当たるとキラキラ光る。 いかにも正義の味方っぽい、人に好かれる容姿。青白くてカビっぽい俺様とは全然違う。
「お前に助けられるくらいなら、このまんまの方がよっぽどましなのだ」
「ありゃりゃ、嫌われたもんだね。ショックだなぁ」
わざとらしい。
「お前だって、俺様のこと嫌いだろーが」
俺様がそんな事にも気付いてないと思ったのか、驚いたような顔をされた。 俺様にだけこんなぞんざいな態度をとっておいて、わからないわけがないのだ。 どこまでも人を馬鹿にした奴だ。ムカつく!
「嫌いって言うか、ムカつくよね」
それはこっちのセリフなのだ!!
「でもさぁ」
不意に綺麗な顔が近づいてきて、俺様は少しびっくりした。いきなりしゃがまないで欲しいのだ。 こいつはお日様みたいだから、近くで見ると眩しくて苦手だ。 自然と俺様の顔がしかめっ面になる。
「そんな嫌そうな顔しないでよ」
「・・・お前も暗ーい顔してるのだ」
「そうだね。僕ってこんな顔しちゃうのも、ムカつくとか思えるのも君だけだからね。自分の中から気持ちが湧き上がることって、ほんとにないからさ」
「俺様のことだけ、嫌いだってことだろ」
「君はさ、ないの? そういうの」
そもそも何が言いたいのかさっぱりなのだ。 弱気なこいつが珍しくて、なんだかむずむずする。 うっかり人を泣かせてしまった時みたいに、なんだか気まずくて落ち着かない。
「仲良くなるのは簡単なんだ。誰とだってね。仲間もたくさんいるし。 でも、友達にはなれないんだよね。それこそ僕の友達は愛と勇気だけさ」
諦めたような呆れたような、嫌な感じの笑い方だった。自分で自分がいやになったときの笑い方だなぁって、鈍感な俺様にもわかった。 他人の気持ちなんてこれっぽっちもわかんない俺様にだって、わかった。
こいつはたまーに、正義の味方らしくない顔を見せるときがある。 それは俺様と居るときだけじゃなくて、街の奴等や他のパンやパンじゃないこいつの仲間やこいつを作った奴等が居るときにも。 たまーに、本当にたまにだけど、自分自身が嫌いで嫌いで仕方ないみたいな顔をするときがある。 だけど誰も、これっぽっちも気づかない。 こいつが正義の味方だから。 正義の味方がそんなこと思うなんて、誰も考え付かない。
わかってるのは、敵である俺様だけだ。
こいつが一生懸命守ってる奴らでも、一緒に戦ってる奴らでもなくて。
こいつと正反対の場所にいる俺様だけ。
馬鹿みたいなのだ。 一生懸命働いてるのは、そいつらのためなのに。 誰もこいつの気持ちなんか、考えもしない。
馬っ鹿みたい。
そんな奴らのために毎日毎日ニコニコ働いてるだなんて。
ま、そんなこと、俺様にはどうでもいいことだけど。
俺様には、これっぽっちも関係ないことなのだ。
「だから僕は、君にかまうんだよ」
こいつが何を考えてるかとか、そんなことはどうでもいい。 たまに見せる淋しそうな顔や悲しそうな顔も。 どーでもいい。
俺様はただ、大大大大大っ嫌いなこいつを倒すだけ。それだけ。俺様はそのために生まれてきたのだ。
「お前が何言ってんよくわかんないけど、俺様には関係ないもんね」
べーっと舌を出して睨みつける。
「まぁ、そう言うと思った・・・けど、ねっ」
立ち上がりざま、右ストレートで俺様の自慢のロボを空の彼方に吹き飛ばして、爽やかに微笑んだ。
「立ちなよ」
さっきまでしおらしい顔してたかと思ったらすぐこれだ。俺様の前でだけ見せる、いつもの腹黒い顔。 まぁ、でも、こいつはこの顔が一番似合ってる。
「ふん、今度こそ吠え面かかせてやるのだ」
「はは、楽しみだなぁ」
いつかぜーったい、このムカつくパンをぎゃふんと言わせてやるのだ!

「さぁ、喧嘩の続きをしようか」
昔萌えついでにメモで書いた文が出てきたのでリサイクル